名誉会長・会長挨拶

会長 杉山雄一

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山添康前会長の後を引き継ぎ、2012年11月から会長に就任いたしました。加藤隆一先生が設立者である本談話会は36年に亘る歴史を持つ伝統のある会です。

私は、加藤先生、山添先生の両会長が築いてこられた道を引き継ぐとともに、さらに未来に向けて発信ができる談話会へ発展させていきたいと考えております。企業における薬物動態研究者に最新の情報を与えるとともに、学・官との交流、企業相互の交流を持つことにより薬物動態研究の基盤の拡大、実力のレベルアップに繋がることを願っております。

本談話会における企業は、製薬企業のみならず、製薬企業を支えるCRO、バイオベンチャー、分析機器・試薬の企業、IT企業などを含んでおります。本談話会に参加する企業の中から、時代の最先端を先取りし、世界の製薬および関連研究をリードできる若い人材を多く輩出するための基盤を作りたいと考えております。 これまで以上に会長、常任幹事、企画幹事、庶務幹事、セミナー幹事、会計幹事の間の相互議論を活発化し、積極的に談話会の発展のための企画を考えていきたいと思っています。

積極的に談話会の発展のための企画を考えていきたいと思っています。

そのためには、談話会そのもののあり方について既存の概念をひとまずは捨てて、本当に何が大事なのであろうか、目的は何だろうか、それを実現するために何が必要なのか、について自らに問いかけると同時に真剣に話しあう必要があると思います。

関連学会として日本薬物動態学会があります。薬物動態学会においても、年会のみでなく、ワークショップやショートコースが毎年、開催されております。多くの企業研究者の先生が、オーガナイザーとして、動態談話会と動態学会の両方で種々の企画に関わっておられると思います。オーガナイザーの先生が両会合で重複していること自身は、何の問題もなくそれだけその方々が信頼されている証拠だと思いますが、是非とも動態談話会の特色を際立たせるような企画を一緒に考えていきたいと思います。動態学会は産官学を中心に発展してきたものですし、そのバランスが必要なことは言うまでもありません。

一方、動態談話会は、その歴史から言っても、企業が中心の会合です。企業における薬物動態の存在を今以上にアピールするような底上げ、基盤作りに役立つことを最優先に考えるべきだと思います。学・官はそれをサポートする役に徹底したいと思います。その観点からすると、動態学会よりも一致団結して目的に向かって突き進みやすい会合体と言えます。そのためには。企業研究者が自由に発言できるような場の提供が必須であると思います。この考えのもとに、意見交換の場のひとつとして、ホームページの作成を推進しております。

会員の皆様からどうか忌憚のないご意見をお聞かせ下さいますようお願いします。私自身に、常務幹事に、また幹事の皆さんのどなたに言っていただいても結構ですので、宜しく御願い致します。皆様の意見に駆動され、日本薬物動態学会とは異なる動態談話会を構築していきたいと考えております。

薬物動態談話会
第3代会長 杉山雄一

名誉会長 加藤隆一

薬物の生体への作用を考える場合、投与または摂取された薬物がどのような形と濃度で作用部位に存在するかが重要となる。すなわち、作用部位に活性薬物ありきにより始まる。

薬物は代謝を受け、その構造が変化すると、その効力は一般には減少する場合が多いが、毒性はまれに増強される場合もある。
それゆえ、薬の個体レベルでの薬効や毒性を評価する場合、作用部位におけるそれら活性体の濃度の経時的な把握が必要となる。特にそれらに強い影響をおよぼす薬物の代謝を明らかにすることが重要であった。

薬物の代謝研究のためには、分析化学的手法、酵素化学・生化学的手法が必要となった。それゆえ、初期の薬物代謝研究の発展には優秀な分析化学者、酵素化学・生化学者の多大な貢献があった。

1958年、精神神経科の臨床医であった筆者は薬の効果・毒性の変動が薬物代謝酵素の誘導・阻害あるいは性差・種差・年齢差による血漿と脳内濃度の変動がパラレルに起こることを明らかにし(これらはPK/PD研究のはしり)、薬理学者に転向し薬物代謝の研究に従事した。

1970年代に入るや製薬企業でも薬物の吸収・分布・代謝・排泄(薬物動態)など医薬品開発における重要性が認識され、薬物代謝部門が新設されるようになった。1980年代に入り、薬物動態の研究者は広く学び実力を付け、medicinal chemistと協同でdrug designに関与するようになり、研究者数も増加した。

この間、慶応大における鎌滝哲也・山添康らの活躍、また、筆者の第3代ISSXの会長就任(1996年~1997年)、第2回ISSX国際会議(1998年)の神戸での開催などにより、日本における薬物動態研究は世界をリードするようになった。

1990年代に入り、世界的にヒトにおける薬物動態の研究が盛んになり、日本における研究は欧米にくらべて遅れを取ったが、ヒト組織や発現系の利用が可能になるにつけ、欧米に追いつくようになった。

一方、生体内薬物の移行に関して、トランスポーターの研究が盛んになり、日本では辻彰、杉山雄一グループの活躍により、世界をリードするようになり、トランスポーターの重要性が広く認められるようになった。

このような研究の流れの背景として、薬物の活性の増強を目指し、従来よりも分子量の大きい(400~550)化合物の開発が増加してきたことと、さらにmedicinal chemistの努力により、水溶性が高くても消化管の吸収の良い化合物の開発が増加してきたことがあげられよう。薬の効力や毒性が活性薬の作用部位の非結合形の濃度に依存し、非結合形の血漿濃度との間にPK/PD関係が成立すると考えられてきたが、トランスポーターの関与により、作用部位の薬物濃度を考慮せねばならないケースが増えてきた。

企業の研究者として、ヒトの標的に重点を置かねばならない昨今、開発の効率化のために以下の研究の発展を期待し、その成果を学び取り入れることが必要とされよう。

  1. 薬物の化学構造と代謝活性の予測
  2. 薬物の化学構造とCYP分子種のかかわりの予測
  3. 薬物の化学構造と膜通過性とトランスポーターのかかわりの予測
  4. ヒト血漿薬物濃度の非観血的な測定法の開発
  5. PETその他によるヒトの作用部位の非結合形薬物濃度の簡易評価方法の開発
  6. 薬物相互作用のin vitroの結果からの予測
  7. Pharmacogenomicsの人種差、個体差とヒト動態への影響の予測
  8. 乳幼児/小児・高齢者・患者などにおける薬物動態の予測

これらのデータの蓄積からmodeling and simulationのtry and errorにより、in silicoでの作用部位の非結合形の活性薬物濃度と薬効濃度の関係の予測の妥当性を高める努力が若い研究者の今後の重大な課題となろう。